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    「それあ、しかし、何だな、知吉さんも今まで不服だつたのをこらへていたんだな、何分かの理窟はあるわけだね」

    それは、やつぱり何となく「役所」臭かつた。

    「はあ、いや。もう手前どもは老いぼれ同然ですからな」

    「畜生、弱い奴だ」と、根津は笑った。

    この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、

    「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。

    と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、

    何となく身体が倦だるかつた。それにちがひはない、今日は珍しく朝早くから川につききりで、おまけに呼びもどされるとすぐ今の騒ぎだつた。埃で黄くなつた頭髪、泥と血の塊り、男の不安げな眼、それからあのいくらか仁義を切るやうな半シャツの甥の身構へだの、それらがもう一度頭の中に蘇よみがへり、一列になつて通つて行つた。

    真黒い顔の男が傍によつて訊いた。

    「すると、何ですか、十年契約といふやうなことにでもなすつたんですか」

    と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。

    「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」

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